
誰だろうか、この子。名前を見ても全く記憶になく、記憶の底を泳いでも何も見つからない。小さなアイコンの顔写真を見ても、薄らいだ記憶の底から何も掬い上げられなかった。
2015年のある日、Facebookのメッセンジャーから飛んできた、ある女子大生からのメッセージ。
「みやねえさん、ライター講座とかやってないんですか?教えてほしいんです……」
本人から軽く自己紹介があり、「ああ、あのとき会った子かあ…」あとから思い出してきた。彼女との出会いはわりと強烈でこちらが驚かされたと記憶している。もちろん、いい意味で。あるイベントに参加したとき、彼女は受付をしていた。私が名刺を提出すると、すぐに声をかけてきたのだ。
「うわ、このWebメディア知ってます!よかったらFacebookで友達申請してもいいですか?」
「え……?ああ、大丈夫ですよお」
随分とアクティブで元気な子だな、と思い、少しだけ受付で雑談したんだったっけ。それ以来は何の音沙汰もなく、いきなり飛んできたのが、Facebookのメッセージだった。
以前のやりとりを追ってみたところ、「自分の活動の一貫として文章を書く経験を積んでみたい。ライターとして活動できるのだろうか」そんな感じの話から、私はこんなメッセージを送っていた。
一般的なWebメディアはライター経験者を集めているので、実績がないと厳しいかな。まずはブログで発信して、機会があったら「こんなの書いてます!」と提示する。
あと「沖縄」というテーマは、既に大きなメディアがこぞって掲載してるのでニッチ路線を目指すとか、何かカラーがないと「普通のブログ」で終わってしまう(=個性がない)
今は誰でも「自称フリーライター」と名乗れる時代なので、テーマは持っていたほうがいい。少し整えてから動いてみてはどうだろう?
[2015.3.19]Facebookのメッセージより。
その後、流れから取材に同行してもらうことになり、私がライター講座をやっても需要あるかな?と聞くと、ありますよー!あります、あります!!!とバリバリ元気な返事が返ってくる。
私のライティングは独学だから、文章力をガッツリ鍛えるライター講座は無理だと思うのよ。そう話すと「沖縄のWebライターといえば、やっぱりみやねえさんですよ」と女子大生。はっ。マジですか……!?
東京の著名なメディアで執筆すると露出が増える。その当時、ブロガーさんはいたけれど、Webで記事を書く沖縄在住のライターは確かに少なかった。へえ… そんなふうに見えてる人もいるんだなと初めて知る。
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ライター講座が成立してしまった「焦りと覚悟と」
その数日後、日本ではどのようなライター講座が開催されていて、沖縄ではどうなのか。ネットで調べてみると盲点が浮かび上がってきた。
2015年の春頃は、沖縄では10年以上のベテランライターが開催する「ライター講座」は存在したものの、Webの知識を絡めたライター講座は存在しなかった。Webのリテラシーを含めたライター講座なら、できるかもしれない。もともとWeb制作に携わっていた経験から、ある程度のWebリテラシーを持っていたからだ。
そして、ライティングに興味がありそうな知人にリサーチすると、受講したいと返事がきた。次にTwitterにそれらしいツイートをすると、Twitter経由でも2名挙手。事の発端となった女子大生も含めて、合計6名の受講者が集まり、ライター講座が成立してしまったのだ。
「これはヤバい…」正直焦った。
どうしよう。 カリキュラムはどうする? 何に重点を置く? 急遽、慌てて準備を進めることにしたけれど、何せ初めての経験だから、どこから手をつけたらいいのか、知る由もない。「困ったなあ… でもやるしかないか」と自分なりに意味づけをして覚悟を決めた。
そして、まず始めたのが、自己分析のような過去の振り返りだった。
・自分の得意なことは何なのか
・経験上、教えられることは何なのか
・Webライティングで最低限必要な知識とは?
・初心者でも実践しやすい方法とは?
・文章力アップの秘訣?コツとは?
自分の体験や思考を言語化する。この振り返りは自分にとっていい機会をもたらした。今まで自分の考えを言語化したことなかったもんね。
自分のライター思考を初めて覗き込んだとき、「自分の体験と思考を言語化する難しさ」に途轍もなく驚いて、自分が言語化できないことを人に説明できるわけがない。ここから猛勉強ですよ…
過去にツアコン時代、新人研修の講師を何度も担当したけれど、ゼロからカリキュラムを組み立てて、ゼロから資料を作成するのが、こんなに重労働だとは思わなかった。人に教えるってこんなに大変なの? やはり実践が一番役立つかな? そんな考えが頭を過ぎった。
勝利の女神が微笑んだ「運とタイミング」
タイミングよく、ある企業からライティングの相談がきた。話を聞くと、「簡単な企画・取材・撮影・執筆」を行って、Webで記事を執筆してもらえないだろうか、という内容だった。1本のWeb記事を作成する。その一連の流れが詰め込まれた取材記事だ。
そこで、あることを閃いた私からも相談させてもらう。
「その記事…。受講生に書かせてもらえたり、しますか。私が編集を入れてクオリティを担保するし、責任を持って入稿します。どうでしょう?」
そこで本社に確認したらしい。その結果、なんとOKが出てしまった。受講生6名=6本の記事を執筆する話が成立して、2015年のGW明けから沖縄で開催する「Webライティング講座」がスタートすることになった。
当時の講座名は「みやねえ講座」
私がうっかり口にした講座名がそのまま定着してしまい、今考えると小っ恥ずかしいやら、甘酸っぱい青春にも似た心がざわざわするこの感じ。楽観主義者の自業自得ってヤツか。孫の代まで語り継ぎたい。
本格的に「ライター講座の準備」に取りかかる
隔週で週末2時間 × 全6回、取材は別日に設定する。つまり、4カ月間を要するライター講座になる。まだ内容が定まってないにも関わらず、先に受講生が集まってしまい、嘘だろ? そんなことって普通ありますか。ほんと勢いって怖い……。
「でもタイミングってあるよな」と今なら思える。これを発端に、2021年はオンライン1期〜4期まで、年に4回のWebライター講座を開催しているのだから。
初のWebライター講座は、私も取材に同行する。そして記事を書いてもらい、私が編集する。そんなプランを組んだものだから、「これは(お互いに)結構きついぞー」と受講生に連絡すると、「やります。参加します!」と全員から返信がきた。
その先の準備は進めやすかったように思う。なぜなら「取材をして、Web記事を執筆する」ゴールが決まっていたからだ。私がライターとして仕事をする際、どのような流れで、どんな作業をして、記事公開までに至るのか。それを事細かに洗い出していく。
取材の準備とリテラシー、執筆に関するノウハウや文章術の基礎に重点を置き、実践に即したスキルを学んでもらう。しかし、人に説明するためには説得力に繋がる根拠が必要だ。
何から説明すれば理解しやすいのか。何に例えたら納得しやすいのか。そんなことを考えるだけで精一杯。資料づくりには一段と時間がかかった。ゼロからって大変…!と思いながらも「みやねえ講座」は無事に初日を迎えることとなった。
2015年のGW明け。やがてライター講座が始まった
Web記事の基礎知識を教えながら、下調べを始めてもらい、取材場所の特徴や気になる点を洗い出す。受講生の考えやアイデアも取り入れながら、記事のテーマや構成を考えながら落とし込んでいく。
<記事の構成は、2パターンを想定>
① 手順を追って説明する、ストーリー性のある記事
② 4〜5つのポイントに絞って、特徴を拾い上げる記事
特徴のピックアップ、ストーリーの構成を一緒に考えていく。
大まかな記事の構成が固まると、取材中に何を聞いて、何を撮影するのかが見えてくる。この説明を入れるなら、こんな写真があるといいよね? ヒントを提示しながら「これくらいのズームがいい感じ」とネットで探した参考画像を見せる。
「この特徴を書くなら、どんな話を聞こうか?」と受講生の考えを引き出して、「こんな情報もあると読者としては嬉しいよね」とアドバイス。しかし、自分の頭の中でイメージした映像が、なかなか上手く受講生に伝わらない。実際に訪れたことがない場所をネット検索で得た情報だけでイメージするのだから、想像を膨らますだけでもひと苦労だったと思う。
とにかく「具体的に伝えよう」と思い、例え話やら時間をかけて説明し、自分主導でストーリを考えていった。最初は全員同時進行だったものが、途中から枝分かれ。一人ひとりと対話しながら1記事ずつ落とし込む。
もっと正確にいえば、体調不良や急な豪雨で欠席者が出たり、「あーごめんなさい。今日でしたね…」とドタキャンが出たり、今となっては笑いごとだけど、オフラインだといろいろ起こり得る。
当時の私は笑顔が引きつっていたと思う。
なぜなら、”全日程を受講しないと取材の準備ができない”講座プランを組んでしまったから。いやあ、当時は本当に焦った。でも受講生に焦りを見せてしまうと、本人たちの不安が募ってしまう。講座当日は丁寧に明るく対応しようと心がけていた。
だから今年、2021年はオンライン開催に切り替えて、いかに進めやすいかを実感している。講座の動画を後日配信しているから、欠席しても後から視聴できるし、実際に取材する前、インタビュー講座の動画を再視聴する人が続出している。
取材当日を迎えると、そこには笑顔が広がっていた

そして、2015年の夏。準備を終えて、アポ入れも済ませて、各人が取材当日を迎えていた。私も取材に同行する。6カ所も巡れるわけね。とほほ……
そして驚いたことに、取材の時はみんな楽しそうだった。私自身もつい遊びすぎて時間が押すくらいには楽しかったのだ。雑談からの流れで情報をゲットしたり、写真撮影は私がヘルプで入ると話していたから自由に撮ってもらう。その場で軽くアドバイスもできた。


現場を体験した受講生たちは「楽しかった」「思ったより大変ですね」とそれぞれの感想を述べていて、最も大変だったのが執筆だったらしい。少しずつ書き進めてもらい、フィードバックする。これを何度か繰り返して、それぞれの原稿が完成していった。
そんな記事をいくつか紹介してみたい。
<初めてのライター講座で公開された記事>
◼絶景の沖縄海カフェ「ピザ喫茶 花人逢(かじんほう)」に行ってきた
https://www.asoview.com/note/798/
◼パレットくもじ 徹底解説!穴場スポットやグルメ情報
https://www.asoview.com/note/2093/
◼沖縄県立博物館・美術館を徹底取材!那覇新都心の穴場スポットを紹介
https://www.asoview.com/note/2025/
初めて開催したWebライティング講座は、終わってみると受講生同様に「はあ、大変だった……でも楽しかったな」である。この経験や記事が彼らの実績として残ることになる。ライター名が入らない分、大いに写真で顔出しをしてもらった。
無事に終了したあと、「当分、ライター講座はいいかなあ」と思ったけれど、その半年後。今度は一般公開にてWebライティング講座を開催していた。沖縄の会場で総勢30名くらい。予想外の人数が集まり、とてもありがたかった。
懲りないヤツだなあ……と自分で自分にツッコミを入れる。人に教えるのは難しいけれど、人に伝えることが楽しくてしょうがない。会場を貸してくれた企業さんにも感謝している。
ちょうど、ライター歴3年目を迎える頃だった。
[こんなことやってます]
沖縄のライター・編集者チーム「OKINAWA GRIT」代表。
ライター|編集者|WEBメディアのディレクター
たまに撮影単体|コンテンツプランナー|SNS運用
Twitter:@miya_nee
・Webライター育成講座の講師
・ライター向けのイベントの企画・運営
・オンラインのライターコミュニティ運営
・月に1度、東京・埼玉(実家)に訪れている
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