沖縄に移住したいと話す友人夫婦に対し、「モノレール沿線なら、車のない君たちでも快適に暮らせるかもしれない」とアドバイスしたところから始まった、モノレール沿線を巡る旅。前編の記事では、那覇空港駅から牧志駅までの9駅とその周辺を紹介した。
「モノレール駅の周りが魅力的な環境だってことは分かったけど、私たちは結局、どこに住めばいいの?」と友人夫婦に質問されて、私はこう答えた。
「私のおすすめじゃなくて、まずはモノレール沿線の町を知ってほしいな。働く場所や暮らし方をイメージしてから、住むところを考え始めても遅くはないと思う。」
この記事では、友人夫婦とともに沖縄都市モノレール沿線を1日で踏破し、各駅の周辺環境を学んだ様子をお届けする。
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沖縄都市モノレール「ゆいレール」の旅路、後半へ
今回は後半の安里駅から首里駅までの6駅、2019年10月以降に開通予定の石嶺駅からてだこ浦西駅までの4駅を巡っていこう。
ノスタルジックな社交街「安里駅(あさとえき)」
安里駅の1日の乗降者数は2,336人(※ 2019年6月現在)で、15駅中11番目に多い。
安里駅の周辺は、ぱっと見て「住宅街」なことがわかる。駅のすぐそばでは、スーパーマーケットの「栄町りうぼう」が営業しており、モノレール通勤であれば帰宅ついでにスーパーでお買い物、という黄金の動線が組める。
栄町りうぼうの隣には、レトロな雰囲気の商店が軒を連ねる「栄町市場」と、スナックや居酒屋がひしめく「栄町社交街」がある。栄町社交街は名前の通り、夜になると大人たちがにぎわうストリートだ。サクッと手軽に飲める敷居の低さもあり、安里駅周辺は、お酒が好きな方にとって誘惑の多い街だろう。
※以下、各駅の1日乗車人数は沖縄県の公式サイトから引用(2019年6月現在)
那覇市の新しい商業中心地「おもろまち駅」
安里駅を出発すると、車窓からの風景は都会的な雰囲気に変わる。この付近は那覇新都心と呼ばれるエリアで、那覇空港駅、県庁前駅に次ぐ乗降者数を誇るおもろまち駅がある。1日の乗降者数は5,753人(※ 2019年6月現在)だ。
那覇新都心はもともと、米軍の牧港住宅地区だったエリア。返還後、2000年に「天久りうぼう楽市」、続いて「サンエー那覇メインプレイス」といった商業施設が次々にオープンした。
駅直結の立派な建物は、免税店の「Tギャラリア沖縄 by DFS」。シャネル、グッチといったハイブランドの製品を、国内のデパートより格安で購入できる。Tギャラリア沖縄 by DFS自体は、観光客向けの施設だが、県外行きの航空券を持っていれば誰でもショッピングを楽しめるため、沖縄在住の方も県外へ行く前にはお買い物ができる。
買い物目的の地元民が訪れるのは、「サンエー那覇メインプレイス」「コープあっぷるタウン」「天久りうぼう楽市」などの商業施設だ。ユニクロ、無印良品などのメジャーな店舗が軒を連ねるほか、スポーツデポ、家電量販店 EDIONなどの専門店もある。
商業施設以外のお出かけスポットも充実しているため、休日には、「おきみゅー」の愛称で知られる「沖縄県立博物館・美術館」で文化に触れたり、那覇新都心公園で爽やかな汗を流してもいい。「ワンオアエイト」や「サクラカフェ」といった、センスのいいカフェも揃っている。
米軍から返還され、再開発したばかりという理由から、おもろまち駅付近の物件は、比較的新しい建物が多い。便利な立地から、家賃も少々お高めだが、バスやモノレールによる那覇市内各所へのアクセスの良さ、買い物の便利さなどは群を抜いている。
沖縄本島中部への移動に便利!幹線道路そばの「古島駅(ふるじまえき)」
古島駅の1日の乗降者数は2,683人(※ 2019年6月現在)で、15駅中9番目。駅の直下には、那覇市から沖縄市までを結ぶ「国道330号線」が通っており、終日交通量は多い。
駅に隣接した「古島駅前」バス停には、国道330号線を経由し中部エリアへと向かうバスが停車する。このバス停から、県内最大のショッピングモール「イオンモール沖縄ライカム」や、アーティストなどのライブが開催される「沖縄コンベンションセンター」、広大な米軍基地があり、お店の英語率がグッと高まる「宜野湾」や異国情緒ただよう「コザ」へのアクセスが可能だ。
国道の両脇は住宅地で、「タウンプラザかねひで」や「マックスバリュ」といったスーパーマーケットが充実している。タウンプラザかねひでの隣には、出雲大社の沖縄分社が建立されており、縁結びの神様に日がなお参りできる。
また、2010年に甲子園を連覇した「興南高校」も駅から近い。興南高校は、伝統的にスポーツが盛んな高校として知られており、ボクシングや空手の世界チャンピオンを輩出している。
癒しのオアシス「市立病院前駅(しりつびょういんまええき)」
古島駅から首里駅方面への線路は、坂道に沿って上昇していく。市立病院前駅の1日の乗降者数は972人(※ 2019年6月現在)で、15駅中もっとも少ない。
古島駅から首里駅までを結ぶ県道82号線は、那覇の中心地に向かう際の主要な通勤通学ルート。この道路の特徴は、何といっても「渋滞」だろう。特に市立病院前駅周辺の道路は、ラッシュの時間帯には驚くほど交通量が増加する。この付近で暮らすモノレールの民は、渋滞と無縁でラッキーかもしれない。
渋滞に加え、もう一つの特徴は「坂道」。古島駅〜首里駅のエリアは、特に道のアップダウンが激しく、市立病院前駅から付近の住宅街を眺めると、かなり高低差があるのが分かる。坂の街として有名な、アメリカのサンフランシスコもびっくりな急勾配なのだ。
坂道が多い分、歩くだけで心地よい筋肉への刺激を味わえる。徒歩通勤ならいい運動になるだろう。
駅から最も近いスーパーマーケットは、古島駅そばの「タウンプラザかねひで」となり、徒歩10分以上と移動は大変。坂道ではときどき、買い物袋をさげなからベビーカーやママチャリを懸命に押す人を見かけるため、電動アシスト自転車があるとより快適だ。
市立病院前駅から徒歩5分強で、街のオアシス「末吉公園(すえよしこうえん)」にたどり着く。子供向けの遊具はあまり多くなく、どちらかといえば、林を散策して自然を楽しむスポットだ。園内には滝や川があり、夏場にはホタルを鑑賞することができる。
城下町で悠久の歴史と暮らす「儀保駅(ぎぼえき)」
さらに坂を登ると、見えてくるのは儀保駅だ。1日の乗降者数は1,804人(※ 2019年6月現在)で、市立病院前駅の次に少ない。
儀保駅周辺は、学習塾や内科、歯科、眼科といった医院のほかは、ほとんとが住宅街となっている。ことから、モノレール利用者が少ない理由は、会社勤めする人の需要が少ないためだろう。
儀保駅でモノレールを降り、儀保十字路を南方向に進むと、現れるのはまたもや急な坂だ。坂を登りきると、視界がひらけた先に、世界遺産の「首里城公園」が待っている。近くには緑豊かな「龍潭池(りゅうたんいけ)」があり、ちょっと散歩するだけで世界遺産もマイナスイオン豊かな水辺も楽しめる。
首里城周辺の地域は由緒正しい城下町で、景観が美しく静かな町並みが広がる。休日には、昔ながらの手づくり菓子を扱う「榮椿(えいちん)」、地元の人と観光客が和気あいあいと談笑する、アットホームなカフェ「木箱」に立ち寄るのもいい。どちらのお店も、作り手のあたたかい雰囲気を映したような、手仕事を感じるれんが目印だ。
首里城公園の周辺には、私の母校「首里高校」や、そのほか「県立芸術大学」「城西小学校」などが建つ。首里高校は、2020年に創立140年を迎える、歴史ある学校で、2019年現在は校舎の建て替え工事中だ。工事に際し、グラウンドの下から琉球王朝時代の遺跡が発掘された。
「もしかしたら、私の家の下にも歴史的な何かが埋まっているのかも…?」そんなときめきを味わえるのが儀保駅エリアだ。
もっとも近いスーパーマーケットは、首里駅寄りの「Aコープ首里城下町店」のため、市立病院前駅と同様、歩きでのお買い物には少しだけ不便な点は注意したい。
線路は続くよ、那覇から浦添へ「首里駅(しゅりえき)」
2019年8月現在、沖縄都市モノレールの終着駅が首里駅だ。
線路下を通る国道82号線を南下すると、南風原町や豊見城市といった、沖縄本島南部エリアに到達する。モノレールの線路は鳥堀交差点から左に急カーブし、V字を描いて北へと向かう。
首里城に訪れる観光客の需要が大きいため、首里駅の1日の乗降者数は3,671人(※ 2019年6月現在)で、15駅中6番目に多い。駅から首里城までの道沿いには、観光客向けの洒落た飲食店が多く、カフェ「CONTE」や沖縄そばの「首里そば」は特に有名だ。
首里駅の北側には、首里中学校や市営住宅を含む住宅街が広がり、児童館、コインランドリーなどがあって子育て世代に優しい環境が整っている。また、那覇市役所の支所である「首里支所」で住民票や年金などに関する手続きを行えるから便利だ。
さらに、スーパーマーケット「かねひで」や商業施設の「りうぼう」も並ぶ。りうぼうには、衣料品や食品売り場はもちろん、「TSUTAYA」「ダイソー」のほか、ドコモショップや飲食店、フィットネスクラブまで揃っているため、ここで日常の暮らしが完結するといっても過言ではない。
だめ押しでつけ加えると、高台からは海が見える。天気がいい日は、東の水平線にうっすら渡嘉敷島が浮かぶため、物件をお探しの際にはぜひベランダからの風景もチェックされることをおすすめする。首里駅、いいエリアである。
モノレールの線路はまだまだ続く。しかし、「石嶺駅」から終点の「てだこ浦西駅」までは、2019年10月以降に開通する見通しだ。
遠く坂の向こうにうっすら見える石嶺駅を指差して、友人夫婦に「ここからは歩きます」と高らかに宣言した。首里駅〜てだこ浦西駅までを結ぶバスの路線は存在せず、自家用車か徒歩以外の交通手段はない。否、モノレールの旅路を行く我々に、車という選択肢はなかった。
暮らしと福祉の町「石嶺駅(いしみねえき)」
首里駅から坂道を下ること、約1km。石嶺駅は、駅から1km以内にりうぼう、エーコープ、サンエーといったスーパーがあるのに加え、郵便局が2カ所。さらにはパン屋さん、ケーキ屋さん、文房具店などが並ぶ暮らしやすいエリアだ。
石嶺小・中学校、城北小・中学校、首里東高校など、学校が集まっているほか、沖縄県の総合福祉センター、福祉研修施設などが並ぶ、福祉の町として有名な地域でもある。
石嶺駅から10分ほど歩いたところには、図書館やプール、ジムを併設した「石嶺文化スポーツプラザ」があり、小さい子供から社会人までが集うコミュニティを形成している。
前編でも触れたが、石嶺は車を持たない沖縄県民代表の私が暮らす土地。那覇市内を走るバスの出発地点となる、那覇バスの「石嶺営業所」があるので、特に国際通り、旭橋、小禄などへのアクセスが便利だ。
とはいえ、車は渋滞にかなわない。ひどいラッシュ時には、石嶺駅から首里駅までの1kmを通過するのに30分ほどかかる。モノレールを利用できるようになると、移動がより快適になるだろう。
先ほどは首里駅の魅力にあてられたが、私もいい場所に住んでいるじゃないか。石嶺駅の開通が待ち遠しい。
人生山あり谷ありとはよく言ったもので、次の経塚駅までは、下りきった坂道をひたすら登らなくてはならない。1.9kmの坂道を一生懸命のぼり、浦添市の「経塚駅」へと向かう。
ようこそ浦添市へ、「経塚駅(きょうづかえき)」
沖縄県市町村概要(平成30年3月版)によると、浦添市は、人口およそ11万人。那覇市の人口約32万人からはだいぶ少ないが、人口密度は沖縄県で2番目の市町村だ。それだけ、居住地としての魅力を感じている人が多いのだろう。
個人の主観だが、母の友人が「浦添に住んだら、便利すぎてもう他のところには住めないッ!」と熱弁していたので、浦添市のいいところを根掘り葉掘り伺ってみた。
母の友人曰く、「なんでもあるから暮らしやすい、那覇よりごちゃごちゃしていない、家賃が安い」とのこと。
調べてみると同じ間取りでも、那覇市中心部と浦添市内では倍近い金額差の物件が散見されたため、車を持たない民は、那覇市から視野を広げて、浦添市内でモノレール駅やバス停へ徒歩圏内の物件をチェックしてみてもいいかもしれない。
「はじめの一歩」へのハードルは、何だって低いほうがいいに決まっている。初期費用が抑えられる手段を、ぜひ選択肢に入れるべきだ。
町なかの喧騒から離れて過ごす「浦添前田駅(うらそえまえだえき)」
経塚駅と浦添前田駅は、前編で紹介した「赤嶺駅」のような、ベッドタウンからの出発駅といったところ。観光やショッピングはいいから、休日は街の喧騒から離れてゆったり過ごしたい、そんな方にマッチするはずだ。
モノレール沿線の旅は、いよいよ終着駅の「てだこ浦西駅」を残すのみとなった。いい年の大人が3人、車両の通らない線路沿いを歩くさまは、まるでロードムービーのよう。
「モノレールが延長されなければ、この場所を徒歩で通ることもなかっただろうなあ」と感慨にふけりながら歩みを進めると、なんと。
線路が、地面に吸い込まれていく…?
「浦添前田駅」から終点の「てだこ浦西駅」までは、モノレール全区間のうち、唯一トンネルが設置されている区画だ。線路が消えても、まだまだロードムービーは終わらない。地中へ消えた目的地を追いかけて、我々は道路を直進した。
本島中・北部への移動拠点「てだこ浦西(てだこうらにしえき)」
終点の「てだこ浦西駅」は、どうやら西原入口交差点の近くに位置するらしい。西原入口は、沖縄県中部・北部へと向かう高速道路のインターが近く、いわば南部と中部・北部を結ぶ玄関口のような場所である。
ちなみに「てだこ」とは、沖縄の方言「てぃだ=太陽」と子供の「こ」が合わさったもので、「太陽の子」を意味する。琉球王朝時代、現在の浦添で活躍した王様に由来する言葉だ。
しかし、西原入口交差点からは、線路や駅らしきものは全く見えない。もしかしたら、歩いていくような場所ではないのかも、そもそも、沖縄で車を持たずに生活するなんて無謀だったのかも…と、不安が最高潮に達したとき、唐突に線路の終端が視界に飛び込んできた。
「ここが…終着点…」
終着駅だからか、モノレール駅の屋根のすぐ近くを道路が走っているためか、「てだこ浦西駅」は、これまで見てきた駅と異なり、板かまぼこのような愛嬌ある形状をしている。
写真の右側に映るのは巨大な立体駐車場で、パーク&モノライド、すなわち「駅で駐車して、モノレールに乗り換える」移動の動線を作るための施設だ。
沖縄県中部・北部への玄関口にモノレール駅を設置し、モノレール駅から中部・北部までのバスやレンタカーといった交通機関を整え、那覇市内の交通渋滞を緩和し、快適な移動を可能にする。
沖縄本島中部・北部へのアクセスが快適になると、例えば、週末ごとに、北部の「美ら海水族館」へ気軽に行けるし、モノレールとバスを活用すると、ハンドルキーパーが不要になるため「名護のオリオンビール工場に、新鮮なビールを飲みに行こうか」、なんてことができてしまう。
沖縄で暮らす。日々の通勤や通学はより短時間に、休日の予定はより快適に。まさに「夢、実現」である。
モノレールで夢は広がったけど、夫婦2人生活、結局どこに住めばいいんだろう
「私のおすすめで住む場所を選ぶのではなく、まずはモノレール沿線の町を知ってほしい。働く場所や暮らし方をイメージしてから、住むところを考え始めても遅くはないと思う」
下見をしながら2人に伝えたとおり、「沖縄移住」「引っ越し」に際して、最初から住むエリアを限定する必要はない。例えば、どんな仕事をするか、職場はどこか、子供は、自炊は、買い物は…。
「モノレールで30分以内なら、毎日の通勤も苦じゃないな」
「何だかんだ近ごろは便利な時代で、食料品だって玄関先まで届けてもらえるから、スーパーの近さはそんなに気にしなくていいかも」
「家そのものの設備はちゃんと確認したいよね、水回りのきれいさとか、夏場は台風が来るから、『雨戸があるか』だったり」
「そうそう、前に大きい台風で車の窓ガラスが割れたけど、これが家の窓だったら、ってゾッとしたもん」
友人夫婦の会話は弾む。彼らの沖縄移住計画が、具体的なものになってきたようだ。
始点の那覇空港駅から首里駅まで、モノレールを途中下車しながら巡った約12.9km。加えて、首里駅から終点のてだこ浦西駅までは、徒歩でおよそ4.8kmの道のりを踏破した。那覇空港駅の出発時に空高く昇っていた太陽は、すでに傾き、夕暮れの様子を見せている。
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「さあ、バス停まで歩こう」。帰宅ラッシュを迎え、車がぎちぎちに渋滞した西原入口の交差点を横切る。これから、2人の宿がある国際通りまで向かい、乾杯しながら本日の振り返りをしなくてはならない。
「この混み具合だと、宿まではけっこう時間がかかりそうだね」などと話しながら、これからの暮らしについて想像を膨らませるのだった。
(文・撮影/なかそね ことみ、編集/OKINAWA GRIT 代表 みやねえ )
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